私の母は花が大好きで、365日、家には花が飾ってありました。
母は、花を少しでも長持ちさせたくて、毎晩、花瓶に飾ってある花を引き上げ、深水に入れて養生して、翌朝、全ての花を生け替えていました。
毎朝、母が花を生け替えているのを見ながら朝食をとるのが、その頃の私の日課でした。学校に遅刻しないように急いでご飯をかき込みながらも、母が手早く次々と花を生ける様子を「魔法みたいだな〜」と見ているのが楽しかった。そんなわけで、実家に暮らしている頃は、自ら花を生けることは全くありませんでした。
大学に入り、東京で一人暮らしを始めた私は、寂しくて毎晩、母に電話していました。そのとき母に「部屋に花でも飾りなさい」と言われたことを鮮明に覚えています。
初めての一人暮らし。新しく買い揃えてもらったテーブルから、コップに至るまでが真新しく、その部屋にある何もかもがよそよそしくて、如何にもこうにも寂しくて仕方がなかったのです。
母の言葉に従って、ある日、花屋で買ったばかりのわずかばかりの花をコップに生けてみました。
そうしたら、不思議と部屋の空気のよそよそしさが薄まって、ふわっと優しい風が吹いて、息をするのが少し楽になったように感じました。
植物は表面的な美しさだけではない、人の心の深いところに一瞬で届く不思議な力を秘めています。日々の暮らしの中のたった一本の花でも、植物が本来持っている健やかなエネルギーをきちんと届けたい。植物の力をいただいて、植物がそばにある、「緑の居場所」をデザインしていきたいと思っています。
Kommentarer